日中はまだ夏の名残を感じますが、盛岡の朝晩はめっきり涼しくなりました。
秋になっても今年はコロナや、大型で非常に強い台風の襲来など、毎日のように「最大級の警戒」が続いているような気がしますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
〝人生の秋を生きる″という素晴らしいお話を、大本山薬師寺管長の安田英胤(えいいん)様〈1938~〉が、NHKでされていました。ぜんぶの内容はとても長いので、要約して紹介させていただきます。
『一体人間というものは、何歳まで生きられるのかな、と昔から考えておりました。最近あるお医者様の本を読みますと、「125歳である」と、こう書いてありました。「それはすべての生き物が成長のピークの5倍である」と。
仏教が生まれたインドでは、人生を4つに区分する考え方があり、25歳までが「春」、定年と考えられる65歳までが「夏」、90歳までが「秋」、90歳以上が「冬」と一応の目安を設けています。
即ち人間は、肉体的に成長するのが、ピークが25歳で、春は、青春の時期、種を蒔いてスーッと伸びていく。子どもが生まれて成長していく過程、そういう時期を「春」といいます。そして春が済むと夏になり、夏は大きく繁茂し、草樹木のいっぱい生長して実を成らしながら成長していく時期。子孫も残し、大黒柱として働いて成長していく。それが済むと「実りの秋」になります。秋は収穫の秋、ここからが人生の円熟期です。
そして、それが終わると冬。冬になると葉が散って、葉が大地に落ちて腐って肥やしに変わっていく。こうした人生の時間を有意義に生きていきたいものです。
人生の秋というのは、肉体は衰えても、精神的に最高の価値が発揮できる歳です。「70代が花道であった、一番楽しかった」と、おっしゃる方は実はとても多い。健康でさえあれば、総合的な判断力も豊かにできるし、政治家も経済人も文化人も尚70歳で、第一線で矍鑠(かくしやく)として働いていらっしゃる。70代を如何に生きているかということが、その人間の値打ちになるのではないか、私はそう考えています。
肉体は25がピークで、グーッと急カーブで下りてきますが、70代は健康さえ保てれば非常に愉しい生活ができる時期です。人によっては体力も衰えて、収入も減る。しかし、マイナス面ばっかり考えずに、定年の65歳から今までできなかったことをこれからやるんだ、何か新しいことでチャレンジをするんだと思うと、実は70代が一番輝いている。「3K」というと「汚い・きつい・危険」とあんまり良い方に言いませんが、人間は「3K」と申しまして「感謝・関心・感動」。「物事に感謝する」こと、何事にも関心をもち、「ものを見たら感動する」ということ。こういうことが大事です。
こうして元気でいられるのも、いろんなお蔭で生かされてきたんだな、と考えます。病気をしても、医学の進歩で今日まで健康が保てた。普通ならばとても治らなかった病気が、今医学の進歩、あるいは薬の進歩で治るようになった。良い時に生まれたんだな、と。肉体自身は治ろう治ろうと軌道修正しようと思って努力している。本当にありがたいことです。
そうなってくると、まわりの方に感謝の言葉を掛ける以外にないではないですか。何故自分がこんな病気になったのかな、と考えてみても病気は結果です。なかなか治らないから、病院が悪いとか、藪医者ではないかと疑ってみたり、看護師さんがちょっと注意したら、態度が悪いと怒ってみたり、料理が不味いから家から持って来いと言ってみたり・・。不平不満で入院していたら絶対によくならない。感謝をしながら、そして自分自身を見つめ直す。今日までの生活を反省する。考え方ひとつで、早く病気も快癒してくるのではないかと思います。
人生の秋というのは、肉体はダメでも、精神的に最高の価値が発揮できる歳なんだと自信を持ってください。自分の限りあるいのちですけども、その秋を満喫することで、さらに充実した90代になることを忘れないで頂きたいと思います。』
(2018.6.15 NHKラジオ第二「宗教の時間」より)
おり返し地点から死ぬまでハッピーな人生にしようということで『人生のピークを90代にもっていく! 』(枝廣淳子・大和書房)という本もありますが、たとえ仕事からリタイア(引退)しても、自分の人生からリタイアせずに、いくつになっても革新し続ける、しなやかで生命力あふれる人になりたいと思いました。
季節の変わり目、お風邪など召されませぬよう、お身体ご自愛下さい。
令和2年9月7日 総施設長 神原美智子